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東京高等裁判所 昭和31年(う)3173号 判決 1957年4月27日

控訴人 被告人及び原審弁護人

被告人 鳥海光平 外一名

弁護人 桝井雅生

検察官 磯山利雄

主文

原判決中被告人鳥海光平に関する部分を破棄する。

被告人鳥海光平を懲役二年に処する。

原審における未決勾留日数中一〇日を右本刑に算入する。

押収にかかる覚せい剤二ccアンプル入五本(横浜地方検察庁昭和三〇年領置票第二七七八号の一)及び同剤五ccアンプル入一三本(前同領置票第三〇三一号の一)はこれを没収する。

被告人姜大竜の本件控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人桝井雅生の各作成にかかる被告人鳥海光平及び被告人姜大竜に対する控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用しこれに対し次のとおり判断する。

被告人鳥海光平に対する控訴趣意第一点について。

原判決によれば、被告人鳥海光平に対する法令の適用において刑法第二一条を掲記しているにかかわらず、主文はもとより理由のうちにおいても同被告人に対する未決勾留日数算入の記載を欠いていることが明らかであつて、本件記録によれば、同被告人は、昭和三〇年一一月二九日午後三時四〇分本件公訴事実すなわち原判示事実につき勾留状の執行を受け、昭和三一年一月一九日保釈許可決定により釈放されるまで五二日間未決勾留を受けていたことが認められる。所論のうちには、同被告人が昭和三〇年一一月八日以降拘束を受けた旨の主張があるが、記録上これを認め得ないのであつて、同被告人は同月二九日原審裁判官の勾留尋問を受け、同日勾留状が発せられ、右のように午後三時四〇分その執行を受けたことが認められるのである。従つて、原判決は同被告人に対し本件未決勾留日数五二日の全部又は一部を本刑に算入するため右のように刑法第二一条を掲記したものと認めるを相当とし、その算入した筈の未決勾留日数を主文に掲げなかつたのは勿論理由のうちにも明らかにしなかつたのは、判決自体における瑕疵であつて、かような瑕疵は所論のように訴訟手続上の法、令違反というよりも、むしろ理由にくいちがいがある場合に当るものというべきであるから、論旨は結局において理由があり、同控訴趣意第二点すなわち量刑不当に関する所論につき判断をなすまでもなく、原判決は破棄を免れない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 工藤慎吉 判事 草間英一 判事 渡辺好人)

控訴趣意

第一点原判決は訴訟手続に法令違反があり破棄を免れないものである。

原判決を閲読するに適用法令の項に於て原審は其の末端に刑法第二十一条を適用したることを明示しあり従つて原審は被告人の未決勾留日数中其の全部又は一部を其の本刑たる懲役二年中に算入すべきを相当と認定したることは明かである。

然り而して本件記録につき被告人の原審判決に至るまでの未決勾留日数を算定すれば被告人が勾留せられたるは昭和三十年十一月二十九日(記録第六三四丁被告人に対する勾留状参照)であつて保釈許可決定に依り釈放せられたるは昭和三十一年一月十九日(同第六四六丁、被告人に対する保釈許可決定、並に同第六四八丁、被告人に対する釈放の通知書各参照)であるから右未決勾留日数は正に五十一日であり、這は被告人が本件につき昭和三十年十一月二十九日原審に起訴されたる際被告人は既に同月八日以降拘束を受け取調べられ其の勾留満期と同時に所謂求令状の手続に依りて勾留の起算日が切り替へられたる次第もあり且爾後被告人に対する直接の取調の無かつた事跡から推考しても原審は当然に未決勾留日数中の相当日数は本刑に算入する意向であつたかの如くに想像され得るのである。然るに原判決主文に於ては被告人鳥海光平に対し果して幾日の未決勾留日数を本刑に算入すべしとなしたるか其の判示を全く欠除していることが明らかである。して観れば原審は未決勾留日数の本刑算入についての表示方式を誤つたものでありこの訴訟手続上の法令違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免れない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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